咬合性外傷とは、過度な負担を受けた歯を支えている歯周組織が傷ついてしまうことです。
噛み合わせのバランスが不均等になっていると、咬合力が集中する特定の歯に過度な負担がかかってしまうことに起因します。
この状態が続くと、やがて歯槽骨が破壊され、最終的には歯が抜けてしまうのです。
この記事では歯科医院様に向けて、咬合性外傷を防ぐために、噛み合わせのバランスを整えるにはどうすればよいのかを解説させていただきます。
咬合調整とはどのような処置か
噛み合わせのバランスを整え、特定の歯に咬合力が集中しないようにして、歯列全体に咬合力を分散させるために行う処置が咬合調整です。
咬合調整の目的と効果
・歯周組織の保護
過度な噛み合わせの力のかかった歯の歯周組織が、その力に耐えられず傷ついてしまうことを「咬合性外傷」と呼びます。
咬合性外傷は、歯の動揺をもたらし、最終的には歯が抜けてしまう原因となります。咬合調整により咬合性外傷を解消できれば、歯周組織を守れます。
・側方圧の解消
歯は、垂直方向に加わる力には比較的よく耐えられますが、横向きに加わる力には弱い傾向があります。
咬合調整により、歯に加わる過剰な横向きの力を解消できれば、歯に加わる有害な力がなくなりますので、歯や歯周組織の健康に良い影響を与えられるのです。
・噛み合わせの改善
上下顎の歯の咬合関係、つまり噛み合わせを咬合調整により整えれば、食事の際の噛み合わせが効率的になります。
咬合調整の原則
咬合調整には、以下の大原則があります。
・側方圧を弱める
歯に加わる横向きの力は、歯にとって歯周組織にダメージを与える大変有害な力です。
横向きの力、つまり側方圧を抑えることは、咬合調整の基本です。
・咬合高径を下げない
咬合調整は、歯の咬頭を削って咬合圧を緩和する処置ですが、削合しすぎて噛み合わせの高さ、つまり咬合高径が下がらないようにしなければなりません。
・エナメル質のみに止める
咬合調整で削合する範囲は、エナメル質に止めなければなりません。咬耗によりエナメル質が薄くなっていたとしても、象牙質まで削合しないようにしてください。
・咬合接触を面接触から点接触にする
咬合調整では、咬合による接触面積を減らすことが大切です。接触箇所が面から点になるようにします。
・必要に応じて暫間固定を併用する
咬合性外傷などにより歯周組織がダメージを受けて、歯が動揺している場合は、まず暫間固定を行って、歯周組織の安定かを図ることを優先しましょう。
咬合調整は、暫間固定ののちに行うことが鉄則です。
咬合調整の効果
咬合調整は、上顎と下顎の歯列の接触が最大になり、かつ安定した状態の顎位である咬頭嵌合位での咬合状態を判断して行います。
早期接触の解消
早期接触とは、咬頭嵌合位に至るまでのいずれかの段階で、一部の歯が残りの歯列よりも先に接触する咬合状態のことです。
咬合調整の目的として、この早期接触の解消が挙げられます。
咬頭干渉の解消
咬頭干渉とは、咬頭嵌合位から側方運動を行ったときに、一部の歯の咬頭が噛み合わせている歯と強く干渉する咬合状態のことです。
早期接触に並び、咬頭干渉の解消は、咬合調整の目的の一つに挙げられます。
咬合調整の方法とコツ
咬合紙を噛ませると、歯に咬合紙の色が印記されます。この色がついたところが、上下の歯が接触しているところで、咬合調整のために削合するのはこの部分です。
しかし、上顎、下顎どちらにも着色しているので、果たして上顎と下顎のどちらの方が悪いのか、そして、どちらを削合すればいいのか、迷う方も多いことでしょう。
そこで、是非参考にしていただきたいのが、下記の分類方法を利用した咬合調整法です。
Jankelsonの分類による調整
Jankelsonの分類は、咬頭嵌合位での早期接触を評価した分類法で、1〜3級に分けて考えられています。
1級は、上顎前歯部の舌側面と下顎前歯部の唇側面の早期接触、上顎臼歯部の頬側咬頭舌側傾斜面と下顎臼歯部の頬側咬頭頬側傾斜面の早期接触を評価しています。
この部分に早期接触が認められれば、下顎の頬側咬頭と頬側の外斜面を削合するのです。
2級は、上顎臼歯部の舌側咬頭の舌側斜面と下顎臼歯部の舌側咬頭舌側斜面の早期接触を評価しています。
この部分に早期接触が認められれば、上顎の舌側咬頭と舌側の外斜面を削合するのです。
3級は、上顎臼歯部の舌側咬頭の舌側斜面と下顎臼歯部の舌側咬頭の舌側斜面の早期接触を評価しています。
この部分に早期接触が認められれば、下顎の頬側咬頭の舌側外斜面を削合するのです。
BULLの法則による調整
・BULLの法則とは、B(頬側咬頭)、U(上顎)、L(舌側咬頭)、L(下顎)の頭文字を合わせた言葉です。
作業則では、咬合紙の色が印記された部分の上記の咬頭を削合しようという考え方です。
DUMLの法則による調整
DUMLの法則とは、D(遠心咬頭)、U(上顎)、M(近心咬頭)、L(下顎)の頭文字を合わせた言葉です。
下顎を前方へ変位させると上顎の遠心と下顎の近心が接触するので、この部分を削合するというコンセプトとなっています。
MUDLの法則による調整
MUDLの法則とは、M(近心咬頭)、U(上顎)、D(遠心咬頭)、L(下顎)の頭文字を合わせた言葉です。
早期接触を起こした部位の上顎臼歯部の近心斜面と下顎臼歯部の遠心斜面を削合するのがコンセプトで、作業側や非作業側を区別しません。
シンプルで使いやすいのが特徴です。
咬合調整の診療報酬
保険診療で、咬合調整の診療報酬が定められています。算定要件は複雑ですので、しっかり理解しておきましょう。
咬合調整の算定要件
咬合調整が認められる病態は、下記の4状態に限られます。
- 歯周炎や歯ぎしりの処置
- 過度な圧力を受ける歯の切縁や咬頭の保護
- 義歯作成や修理の際のレスト形成
- 咬合性外傷を防ぐ処置
咬合調整の診療報酬
・咬合調整の点数
令和2年度の診療報酬は、下記のように定められています。
1歯以上10歯未満:40点
10歯以上:60点
例えば、1回に歯を5本咬合調整したとしても、9本したとしても、40点ということです。
・咬合調整の同一初診内での算定回数
咬合調整を行なった場合は、咬合調整を行った歯の数に応じて、1口腔単位で6ヶ月に1回の算定が認められています。
算定要件における対象となる病態が複数だったとしても、何度も算定できるわけではありません。
つまり、半年以内では、何度咬合調整を行っても、2回目以降は算定できないということです。
算定する際には、レセプトの適応欄に、いずれの目的での咬合調整かを明記しておく必要があります。
なお歯周炎の治療に咬合調整を行う場合、SPTや歯周病重症化予防治療を始めた後は、これらに含まれることになるので、咬合調整の点数の算定ができなくなります。
咬合調整の目的を理解し原則を守ろう
今回は、歯を守るために欠かせない咬合調整についてお話ししました。
咬合調整の目的は以下の3つです。
- 歯周組織の保護
- 側方圧の解消
- 噛み合わせの改善
そのために以下の5つの原則を守りましょう。
- 側方圧を弱める
- 咬合高径を下げない
- エナメル質のみに止める
- 咬合接触を面接触から点接触にする
- 必要に応じて暫間固定を併用する
この原則を守りつつ、上顎や下顎の早期接触や咬頭干渉を起こしている咬頭を削合し、歯と歯周組織の健康を守ります。
なお、咬合調整は、保険診療の適応を受けており、歯の本数によって40点と60点と定められています。
算定には要件が定められていますので、ご注意ください。