印象採得時の注意点・手順は? IOSをのデジタル印象採得も解説

印象採得は歯科の臨床において避けることのできない大切なステップの一つで、歯科医師にとっても歯科衛生士にとっても、毎日行う業務です。

印象採得を上達するには慣れることが一番。この記事でご紹介する注意点やコツを知った上で取り組めば、より効率的に練習ができ、すぐに習得できるはずです。ぜひ活用してください。

印象採得時の注意点

印象採得は、失敗すると再印象となるため緊張してしまいますよね。ここでは、どんなことに注意して行えば良いのか解説します。

患者さんへの配慮が重要

経験が浅いうちに印象採得時一番に注意することは、患者さんに配慮することです。口腔内の欠損や支台歯の状態、粘膜や舌の動き方の違いなど患者さんによって口腔内は様々な状態です。日々印象採得を行うことで、様々なケースでの印象採得に慣れていきます。

印象採得を始める前には説明を行い、印象採得中は呼吸が苦しくないかを確認し、「鼻でゆっくり呼吸してください」という声かけを忘れないようにしましょう。印象採得することに気を取られてしまうと忘れてしまうこともあるので、注意が必要です。

失敗したときは謝罪の声掛けをすれば大丈夫

うまく印象採得できずに再印象となった場合には、「申し訳ありませんが、もう一つ型を取らせてください。」ときちんと説明すれば、多くの患者さんは受け入れてくれます。焦らずに、なぜ失敗してしまったのかを考えて再印象しましょう。

また不慣れなうちは、患者さんの顔を印象材で必要以上に汚してしまうこともあります。「顔を拭かせていただきます。」と声掛けをして顔をお拭きすれば、特に問題になったことはありません。

術者があわててしまい説明を怠ったり、患者さんに痛い思いや不快な思いをさせたりすることもあります。誠実に謝罪すれば大丈夫なので、落ち着いて印象採得しましょう。基本的には印象採得はやり直せます。もし失敗してしまったら、隠すよりも素直に謝った方が良いものです。

しっかり練習して、コツをつかむ

印象材を練って、トレーに盛ることができるようになったら、スタッフ同士で印象採得の練習をしましょう。マネキンなどでやるのと、実際に人の印象採得をするのとでは全く感覚が違います。

頬粘膜の硬さや口の大きさ、開口量などによって印象採得しやすい場合とそうでない場合があります。さらに欠損や支台歯の状態によって、印象採得は難しい場合があります。いろいろな患者さんの印象採得を行い、まずはコツをつかむことが大切です。

印象採得の手順

片顎の印象採得は歯科医院でよく用いられますが、あまり難しくはないと思います。ここでは全顎や義歯の印象採得について手順を説明します。

印象採得は上下顎セットで行うことが多いのですが、失敗しにくいと思われるほうを先にとるようにしましょう。基本的には対合からです。これは、うまく印象採得ができなくても、対合なら再印象する必要がないことも多いためです。

何度も印象採得を行うことは、患者さんにとって苦痛ですし不信感を抱かれてしまうので、まずは一度で対合を印象採得するようにしましょう。

上顎の印象採得

奥歯から前歯へとトレーをゆっくり圧接します。前歯部の印象材が不足することもあるので、不足している場合には余剰の印象材をトレー辺縁から足すようにしましょう。

印象材がゆるいと喉のほうまで垂れて呼吸できなくなるので、適度な硬さで練るようにしてください。

頬粘膜や口唇を術者が引っ張って、口腔前庭まで印象材が行き渡るように動かしましょう。

下顎の印象採得

前歯から奥歯へトレーを圧接します。下顎でも前歯部の印象材が不足することがあるので、その場合には余剰の印象材をトレー辺縁から足すようんしてください。

患者さんに舌を上に上げてもらい、舌側にも印象材が流れるように促します。

頬側は術者が頬粘膜を動かすことで、口腔前庭まで印象材が行き渡るようにしましょう。

義歯の印象採得

義歯の印象採得で難しいのは、残存歯がある顎堤と欠損部の顎堤の高低差が大きいところです。

既製トレーではこの高低差を被覆することが難しいことがあるので、その場合はユーティリティワックスなどで高さを高くして義歯床の外形をすべて被覆できるように印象採得の前に準備をしなければなりません。

義歯作成においては、欠損部の顎堤の形態だけでなく上顎結節やレトロモラーパッド、顎舌骨筋線、粘膜、小帯の位置も重要な因子となりますので、ベテランの歯科医師に印象を確認してもらうようにしましょう。

嘔吐反射がある患者さんの印象採得

嘔吐反射がある場合は、特に患者さんへの声掛けが重要です。患者さんは不安感が大きいので、今からすることを説明し、「何かあればすぐに手を上げてください」などといった配慮を忘れないようにしましょう。

また印象材をトレーに盛りすぎると、口の中に印象材があふれ喉の奥にも垂れるので適度な硬さの印象材を適切な量盛ることが重要です。

上顎の印象採得では特に喉に印象材が流れてしまいがちなので、トレーを圧接したらチェアーを起こして呼吸しやすくすると良いでしょう。

IOSを用いたデジタル印象採得のメリット

近年デジタル印象採得が多くなっていますが、ここではそのメリットをご紹介します。

咬合採得が正確に行えるため、咬合調整にかかる時間が少ない

デジタル印象採得では、咬合採得を通常の印象採得よりも精密に行うことができます。よって製作した補綴物の咬合調整にかかる時間を短縮することができます。

補綴物の適合が良い

印象材の変形などが起こらないため、補綴物の適合もよくなります。

スキャン画像を即座に見ることができる

印象採得した画像を即座に見ることができるので、形成量や形態の修正もその場ででき、再印象をするかどうかもその場で判断できます。

再印象はその部分だけ行うことができる

再印象すべき部位がスキャン画像を見るとすぐに分かるので、その部分のみ再印象することができます。

嘔吐反射がある患者さんにも抵抗が少ない

アルジネートやシリコーンを用いた従来の印象採得と比較して、スキャナのヘッドを口腔内に挿入するだけなので、嘔吐反射のある患者さんにとっては抵抗が少ないようです。

デジタル印象採得のデメリットとその対処法

デジタル印象採得のデメリットとしては、歯肉縁から縁下にかけての印象採得が難しいことが挙げられます。

歯肉縁から縁下の印象採得では、しっかりと歯肉圧排を行わなければスキャンを行うことができません。

テンポラリークラウンを用いて歯肉圧排することで、縁下のデジタル印象採得が可能になります。

アナログの印象採得とは違ったやり方が必要にはなりますが、デジタル印象採得を行うことで適合の良い補綴物を作ることができるため、デジタル印象採得の価値があると考えられます。

デジタルとアナログの印象採得の違いと今後の展望

デジタル印象を行う際に、アナログ印象でも同時に補綴物を製作すると、良く違いが分かります。アナログ印象では適合に差が生じており、それを確認する度に、デジタル印象の価値を認識させられるはずです。

デジタル印象は、アナログ印象と同じ感覚で臨むと、マージンラインが歯肉縁付近からそれより下にある症例では印象が取りにくいという欠点がありました。僅かな出血があっただけでも、全くといっていいほど印象が取れなかったのです。これは後に治療方法を工夫することで克服されましたが、今現在でも課題となっていることに変わりはありません。今後の課題解決に期待します。

デジタル印象は、今後も受け継がれていく技術です。私達の今ある技術は彼ら先人の苦労の上に成り立っているのです。

先人の苦労に報いる意味でも、マイクロスコープやCTしかり、それら優れたモノ、方法を可能な限り取り入れていくよう努めるのが、後に続く人間の努めではないかと考えます。

こんな話をお聞きになって笑われるかもしれませんが、先人の苦労に報いる意味でも、デジタル印象を採用してみてはいかがでしょうか。今後はもっと採用する歯科医院が増えていくことでしょう。

今後、デジタル印象がより広く発展していくには、口腔内スキャナーを販売するだけでは不十分です。その使い方を明確に確立すると共に、その教育を拡充していく必要があるのではないでしょうか。

印象採得は練習を重ねて慣れることが大切

印象採得は患者さんに配慮し、落ち着いて行うことができれば難しいものではありません。

印象採得のうまい先輩の方法をしっかり見ることも勉強になりますので、参考にしてみるとよいでしょう。

印象採得は練習を重ねれば、必ず上達します。この記事を参考に、しっかり練習して、うまくできるようになってくださいね。

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