歯科のインプラント治療で用いるアバットメントには様々な種類があります。アバットメントの選択基準や各種の違いについて解説していきます。
アバットメントとは?
アバットメントとは、インプラントの構成要素の一つです。インプラント体と上部構造をつなぐ役割をしています。
アバットメントは、粘膜貫通部の部品であり粘膜の厚みにより貫通部の長さを選択します。また上部構造の固定様式を選択するために用いるものです。
インプラント体を傾斜埋入しなければならない場合や連結予定の他のインプラント体との平行性を補正する場合には、インプラント軸と歯冠軸の補正のために角度付きアバットメントやカスタムアバットメントを用いることがあります。
アバットメントはメーカーにより様々な種類があり、名称も様々です。一般的にはインプラント体埋入後、オッセオインテグレーションを獲得してから上部構造を装着するためにアバットメントを装着して、支台装置として用います。
アバットメントの種類は大きく分けて材質、連結機構、既製アバットメントかカスタムアバットメントかによって分類できます。
アバットメントの選択において考慮すること
アバットメントは、以下の様々な観点から総合的にみて最も適していると考えられるものを選択します。
- アバットメントの高さ・直径
- 粘膜貫通部高さ
- 上部構造の固定様式
- 審美性が要求されるか
- プラットフォームスイッチングを行うか
- インプラント軸と歯冠軸の補正を行う必要があるか
以上のことを考慮することで、適切にアバットメントを選択できることでしょう。
アバットメントの種類①材質
アバットメントの材質により、メリット・デメリットが違うので症例に合わせて選択します。
チタン
チタンは生体不活性で、化学的に安定しており生体に害が少ない材料として用いられており、ジルコニアに比べて破折が起こりにくいとされています。
金属なので強度がありアバットメントの主流の材料ですが、前歯部など審美性が要求される場合には金属色であることがデメリットです。
チタン合金
チタンと性質は似ていますが、より機械的性質を高めるためにアルミニウムやバナジウムなどを加えて合金になっています。これらの元素を加えたことによって、チタンに比べて金属アレルギーが起こる可能性があるのです。
チタンと同じくアバットメントの主流の材料ですが、前歯部など審美性が要求される場合には金属色であることがデメリットとなります。
ジルコニア
ジルコニアは白色のため、チタンに比べて審美性に優れています。一方チタンに比べて破折が起こりやすいのがデメリットです。
前歯部など審美性が要求される部位に主に使われています。
金合金
金合金は機械加工性に優れています。
チタンやジルコニアに比べて生体親和性は低いため、長期的にはインプラント周囲炎などを引き起こす可能性が高く、生体親和性の観点からチタンやジルコニアを用いることが多いようです。
アバットメントの種類②連結機構
連結機構の違いにより、印象精度、上部構造の長期的な安定や機能開始後の骨レベルの変化にも影響があります。
エクスターナルジョイント(外部連結)
アバットメントがインプラント体の外側に嵌合するタイプのものです。上部構造の製作が容易で着脱の自由度が高いメリットがあります。
一方、アバットメントスクリューが緩みやすく回転や側方力に対する抵抗性が弱いという点がデメリットです。
マイクロリーケージからの感染にも弱いことが示唆されており、多数歯のインプラントで主に使用されます。
インターナルジョイント(内部連結)
アバットメントがインプラント体の内側に嵌合するタイプのものです。インプラント体内部に回転防止機構が付与されているものもあります。
エクスターナルジョイントに比べて、アバットメントとインプラント体の嵌合接触面積が大きく、側方力による応力の集中が少なくなるのです。よってアバットメントスクリューが緩みにくくなっています。
主に使用されるのは、単独歯や少数歯のインプラントです。
テーパージョイント
インターナルジョイントの中でも、インプラント体上部にアバットメント連結用のテーパーが付与されたものです。
アバットメントをねじ込んでいくとテーパー部分を押し広げることになり、くさび効果でより強固に固定されます。
主に使用されるのは、単独歯や少数歯のインプラントです。
アバットメントの種類③既製アバットメントとカスタムアバットメント
既製アバットメントでは審美的・機能的に対応できないと判断した場合、カスタムアバットメントが多く用いられます。
既製アバットメント
既製アバットメントには様々な種類があります。既製品のため、鋳造欠陥は起こりにくく機械的性質は安定しているのです。
基本的には既製アバットメントを用いることが多くなります。
カスタムアバットメント
カスタムアバットメントは、既製アバットメントでは対応できない場合に用います。
インプラント体に対する角度、材質、形態的な制限により生体力学的・審美的に不十分な場合などです。
カスタムアバットメントのメリットは、支台形態付与の自由性、インプラント体埋入角度の補正、支台歯間の平行性の確保、適切なエマージェンスプロファイル形態の付与などで、機能性と審美性を兼ね備えたセメント固定性の上部構造には不可欠となります。
症例に応じてジルコニアやチタンをCAD/CAMで削り出したり、ワックスアップした理想的な形態で金合金を用いて鋳造したりして作製するのです。
審美性が要求される部位や既製アバットメントでは対応できない症例に多く用います。
まとめ:様々な観点から最適な種類のアバットメントを選ぼう
インプラント治療で用いるアバットメントの種類と選択基準について解説しました。
アバットメントは、インプラント体や上部構造と同じくインプラントの予後を左右する一因となります。
様々な観点から最適なものを選択して、患者さんが長期的に満足されるインプラント治療を行いましょう。