歯科医師が補綴治療をする際、重要となるのが支台歯形成です。
日々の診療を行ううちに自己流になってしまっていたり、なんとなく行っているとつまずくポイントがたくさんあります。
補綴治療の際に支台歯形成の過程で失敗してしまうと、治療が進まず術者だけではなく患者さんの負担にもなってしまうのです。
ちゃんとした支台歯形成を行えれば、患者さんの負担も軽くなるうえ、補綴物も長持ちし、術者のスキルも向上します。
この記事では、恥ずかしくていまさら聞けない基本を解説していきましょう。
支台歯形成とは?
支台歯形成とは、クラウンやブリッジなどの補綴物を被せる際の土台となる歯の形態形成のことです。
すべての歯は形が違っていても、歯頸部に向かって狭窄した形態になっています。形成角度に配慮して支台歯形成を行うことで、クラウンやブリッジなどの十分な保持を実現できるのです。
また、咬合力によって補綴物が壊れないようにするためにも、歯をなるべく残して形成することも必要とされています。
支台歯形成の手順とは?
支台歯形成の手順としては以下の順番が一般的です。
①咬合面または切縁
咬合面、前歯部の場合切縁から削合していきます。
削合の厚みを確認しながらガイドグルーブを入れると、削合しやすくなるでしょう。
②頬側
比較的見やすい頬側部分の形成を行います。こちらもガイドグルーブを利用しながら削合のし過ぎに気を付けましょう。
③舌側
舌側を削合するとき、下顎の場合はミラーやバキュームで舌を圧排て傷つけないようにしながら形成を行います。
④隣接面
隣在歯を傷つけないように気を付けながら隣接面の形成を行います。
⑤隅角部修正
アンダーカットがないか確認しながら隅角部を丸めていきます。
⑥歯肉縁下形成
事前に歯肉圧排をして歯肉縁下が見えるようにしておきます。
⑦仕上げ
全体の削合を終えたら角になっている部位がないようにすべての角は丸く、面は適度な粗さが残るように仕上げていきます。
支台歯形成の前に確認するべきこと
支台歯形成の手順に移る前に、確認しておくべきことをまとめました。
支台歯の着脱方向を確認
支台歯を着脱する方向を確認しておきましょう。
基本は前歯部は歯冠軸方向、臼歯部は咬合平面に垂直な方向です。
マージンと形成量に合ったバーを選ぶ
支台歯形成は非常に多くバーを使います。
支台歯形成の仕上がりを良くするためにも、部位や削合量によってバーを選びなおすのがおすすめです。
バーを選びなおすことで、過剰な削合を防ぐこともできます。
支台歯形成時の術者ポジションと姿勢を見直す
無理な体制にならないように治療部位ごとに術者のポジションを変えることは基本です。
タービンを持った際の固定点の位置も確認しましょう。また形成時の患者の頭位についても考えておいてください。
歯肉炎症のコントロールと歯肉圧排
健康な歯茎に補綴物を合わせられるよう、支台歯形成前に歯肉が炎症を起こしていない状態にコントロールしましょう。
歯肉が腫れている状態や荒れていると補綴物を被せた際のフィニッシュラインのずれ、不適合につながります。
適切な圧排を行い、歯肉縁下のマージン形成をしっかりと行えるようにしましょう。
口腔内での切削をシミュレーションする
模型上で支台歯形成のシミュレーションを行ったあと、タービンを回転させない状態でバキュームも使って、口腔内でシミュレーションをしてみましょう。
想定通りにタービンを動かすことができるか、ぶつかる部分はないかなど確認しましょう。
バキュームによる舌の圧排で患者さんが苦しくならないか、頬舌傷つけずにタービンの邪魔にならない部分にバキュームを持ってこられるかも確認してください。
支台歯形成で注意すべき2つのポイント
支台歯形成で注意すべきポイントを解説します。
軸形成
冠の脱落を防ぐために以下の保持形態、抵抗形態の基本は押さえておきましょう。
- 軸面高さをなるべく高くすること
- 軸面面積は広く形成すること
- 修復物との接触面積を大きくするためにも歯と相似形にすること
- 着脱方向を前歯は歯冠軸,臼歯は咬合平面に垂直な方向にすること
- テーパーを2~5°で適度な粗さに仕上げること、それが難しい場合は適切なグルーブ、ボックス、ホールを形成して離脱を防ぐ
基本を押さえることで、多くの問題が解決できます。
隣接面形成
隣在歯、特にコンタクトポイントを傷つけないようにスライスカットを行い、下部固形空隙から上に向かって繊細に削合を行うのがポイントです。
隣接面を削合しないように気を付けるあまり、遊離エナメル質を形成してしまう場合があります。
細いバーを使いながら、やや傾斜させてアイランドを残しながら削り、徐々に太いバーに変えていくことによって、エナメル質形成を防ぐことが可能です。
部位ごとの支台歯形成のポイントは?上達するコツを解説
支台歯形成の部位ごとのポイントも解説していきましょう。上達の秘訣がここにあるはずです。
上顎前歯部
上顎前歯部は比較的ポジショニングもしやすく形成しやすい部位です。
脱落を防ぐための形成のポイントは舌面はなるべく歯頸結節部の切削量を少なくし軸面高さを保ってくいださい。唇側も削合のし過ぎに注意しましょう。
フィニッシュライン→唇側は歯肉縁下0.5mm程度、両隣接面は歯肉縁か歯肉縁下0.5mm程度、舌面は歯肉縁に設定してください。
下顎前歯部
下顎前歯は全体的に削合量が少なく済みます。
むしろ支台歯形成量を多くとりすぎて、支台歯が細すぎてしまうことがないよう注意しましょう。
フィニッシュライン→唇側は歯肉縁下0.5mm程度、両隣接面は歯肉縁か歯肉縁下0.5mm程度、舌面は歯肉縁に設定してください。
上顎臼歯部
遠心軸面形成は直視できないためとても難しい作業です。
ポイントはダイヤモンドポイントの先端を支台歯遠心隅角部のフィニッシュラインにあわせて設定し、軸方向に合わせて遠心面を切削していきます。
バーは軸面形成方向に合わせて削合しましょう。
もう一点難しいポイントは、角ばりがちな遠心面から頬面、舌面への移行部です。遠心軸面から頬側軸面の方向に削合すると丸みを持たせやすくなります。
フィニッシュライン→上顎小臼歯頬側は歯肉縁か歯肉縁下0.5mm程度で、他のフィニッシュラインは歯肉縁です。上顎大臼歯のフィニッシュラインは全周歯肉縁となります。
下顎臼歯部
下顎は上顎よりも視野は明瞭ですが、やはり遠心部の形成が難しくなります。遠心部から舌側への移行部に関しては、上顎と同じように丸みを持たせることに注意しましょう。
またタービンが上顎の歯列に当たって形成が難しい場合もあります。その際は、固定点を変えてタービンの方向を変えながら支台歯形成を行ってください。
フィニッシュライン→下顎小臼歯は歯肉縁か歯肉縁下0.5mm程度で、他のフィニッシュラインは歯肉縁に、下顎大臼歯部のフィニッシュラインはすべて歯肉縁に設定しましょう。
まとめ:支台歯形成の手順をマスターしよう
支台歯形成の手順をつかむことができたでしょうか。なかなかうまくいかないときは基本に戻るのが脱出への近道です。
ぜひこの記事を参考に支台歯形成の基本をマスターしましょう。